人のために役立つ喜びを求めて
「ありがとう」の笑顔が励みに。働きながら学べる介護の道
中御料から東雲町に移転し、入居者のご家族からも「市街地の便利な場所にあって、面会に行きやすい」と評判に
平均年齢86〜87歳の高齢者が暮らす「北の峯ハイツ」は、富良野市内唯一の特別養護老人ホーム。
平成25年4月に中御料より東雲町へ移転し、同時に大部屋で複数の入居者をケアする「多床型」から、全室個室の「ユニット型」に転換した。
入居者の定員を100人から120人に増員し、空きベッドを利用してのショートステイも受け入れている。
入居者への面会は年間のべ約6,000人、地元のボランティアや看護学生などとの交流もあり、地域に開かれたホームとして親しまれている。
「未経験の新入職員も大歓迎」という施設長の福永さん。自分自身も高校卒業と同時に、何も知らない福祉の世界に飛び込んだ
施設長の福永吉克さんは高校を卒業して以来、福祉の道ひとすじ34年。
野球部の先輩が1年先に勤め始めた障がい者支援施設「北の峯学園」に就職し、同学園で25年間勤務したのち、法人内の通所施設を経て、平成25年に同ホームへ異動した。
現職に就く前、同じ法人の障がい者支援施設「北の峯学園」に25年務めた。異動になるときに職員、入所者の方たちから贈られた寄せ書きが大切に飾られている
2013年4月1日に、北の峯ハイツの旧施設で撮影した集合写真。シフト交代に合わせて撮影するため、集合写真も2枚に。福祉の道をひたすら歩んできた足跡が施設長室の壁を飾る
大ベテランの福永さんだが、高校時代に進路を決めた当時は、特に福祉に関心があったわけではなかったそう。
「ご縁があって知らない世界に飛び込み、知的障がいのある方たちやご家族と接するうちに、気持ちが変わってきました。
障がい者の方たちは素直でストレートな人が多く、この人たちに喜んでほしい、少しでも力になりたいと真剣に思うようになったんです」。
ホールでちょっと立ち話。スタッフがお互い、気軽に声を掛け合える雰囲気の職場だ
自分自身が知識も経験もゼロの状態からスタートしたこともあり、ホームの新入職員は無資格で未経験の人も大歓迎。
「一番大切なのは気持ちです。いつも笑顔で元気な人、明るく話ができる人ならOKです。
お年寄りに優しく声をかけられれば、最初はそれで十分。資格や知識は、働きながら身に付ければいいんです」と福永さんは言い切る。
職員がチームワークを発揮して入居者をケアできるよう、日常のコミュニケーションを欠かさない
ホームは短時間しか働けないパート勤務希望の人を除き、正規職員採用が基本となっており、新人が段階を踏んで自信を持って働けるよう、先輩職員が教育係として新入職員を支援する体制を整えている。
福祉のプロに必須とされる介護福祉士の国家試験は、初任者・実務者研修受講料を貸与し、資格取得後に3年間勤務すれば返還は全額免除。
そのほか、職員が研修会などを受講する際は出張扱いにするなど、学ぶ機会を法人全体で充実させている。
また、職員101人の年代は10代から60代までと幅広く、女性が7割を占める。女性が働きやすい環境作りのため、現在の産休・育休制度に加え、託児施設も計画中だ。
電気工事士から福祉の道に転職した石田さん。今は介護スタッフのリーダーだ
80人以上の介護スタッフのリーダーを務める主任の石田剛さんは、畑違いの分野から転職した職員の一人。
平成20年に入職するまでは、電気工事士だったという変わり種だ。
勤め先が廃業することになり、同業他社に転職するか、思い切って別の仕事に挑戦しようかと迷っていた時、何年もメンテナンスを担当していた同ホームの庶務から「うちで働いてみない?」と声をかけられた。
高齢化社会でますます必要とされる将来性と、社会に貢献できるやりがいを感じて福祉の道に転身し、最初は施設管理から業務をスタート。
働きながら介護福祉士の資格も取得し、現場で少しずつ経験を積んできた。
スタッフと日誌を確認する。24時間介護を行うホームでは、情報の共有とチームワークが重要だ
毎朝フロアを回り、夜間に変わったことはなかったか、入居者の皆さんはしっかり食事を摂れているか、熱はないかと気を配る。
人員の配置や職場のルール作り、職員同士で報告・連絡・相談の徹底を図ることなど、組織の運営に関わる業務も多く、課題は山ほどある。もうじき入社8年目を迎える今も、まだまだ試行錯誤の毎日だという。
そんな石田さんが大切にしているのは、スタッフ全体がチームワークを発揮し、見極めと気付きを意識しながら、入居者一人ひとりに合ったケアを実践できる環境を作ること。
「人間関係や働きやすさが重要な職場ですから、スタッフにいつでも気軽に相談してもらえる雰囲気や、お子さんが熱を出した時などに早退しやすい体制作りが必要です。
職員の歓迎会や誕生会といった、業務以外の交流の場も設けています。
施設全体でいろいろなことにチャレンジしていきたいですね」。
スタッフとミーティング。いつでも気軽に相談しやすい雰囲気作りも大切だという
人の命を預かる仕事だけに気も張るが、帰宅して4歳と1歳のお子さんに「パパ」と呼ばれると、疲れも吹き飛んでしまうそう。
「いつも家族に支えられていると実感しています。
それに電気工事士時代、自分が工事を担当した住宅の前を通ると、窓の灯りに人の温もりを感じて、『この家に住む人のために頑張ってよかった』と誇りに思えたんです。
その時と同じ、人のために役立つ喜びを毎日感じられるのがうれしい」と石田さんは穏やかに微笑む。
いつも明るい笑顔の上野さん。3人の子のお母さんでもあり、仕事と家庭の両方から元気をもらっているという
介護職員の上野梨香さんは、事務職から市内の病院の看護助手を経て、このホームへ。
事務職時代に3人目のお子さんを出産したことをきっかけに、もっと人の役に立つ仕事がしたいと思い、託児所のある病院の看護助手に転職したが、病院では看護師の指示がないと動けない。
「もっと主体的に動けて、人と直接関われる仕事は何だろう」と考え、介護の仕事を選んだ。
今日のレクリエーションは、うちわを使った風船バレーボール。ボールを入居者の皆さんにトスする上野さん
入居者一人ひとりのニーズや好みを把握するのは簡単ではないし、夜勤中に各個室からのコールが重なると焦ることもある。
でも自分が頑張った分、入居者に『ありがとう』と言われるたび、モチベーションが上がる。
入浴の介助をしていて「あなたは髪を洗わせたら一番ね」とほめられた時や、入居したばかりで新しい環境に慣れていないお年寄りが、笑顔で接している内に打ち解け、笑ってくれた時は本当にうれしい。
レクリエーションの時間に飲み物を配る上野さん。一人ひとりに笑顔で声を掛ける
今年は長男の高校受験と、自分の介護福祉士資格の受験が重なり、受験勉強の戦友のように、それぞれの試験に立ち向かった。
母の日に「お母さんはお仕事もして家事もして、淡々とこなしていてすごいと思う」とのメッセージを添えたカードを受け取り、頑張ってよかったと心から思えた経験も、上野さんの大事な宝物だ。
ホームの館内は楽しい飾り付けでいっぱい。入居者さんの誕生日の記念写真も張り出されている
人と直接関われる仕事を求め、介護職を選んだ上野さん。入居者の皆さんとのコミュニケーションが、仕事へのモチベーションを上げてくれるという
「職場では仕事で元気をもらえ、家では子供たちに力をもらって、大変でも疲れたと思うことはありません」。
笑顔で話す上野さんは、子供たちの行事に張り切って参加し、アウトドアも大好き。
働くお母さんが生き生きと過ごせる職場は、誰にとっても働きやすい環境なのではないだろうか。
新卒4年目の藤原さん。日常の介助や医務との連携、夜勤中の見回りなどの業務に全力投球している
同じ介護職員の藤原千菜津さんは、新卒4年目の21歳。
お姉さんが先に同ホームに就職した縁で、姉妹そろって職員に。
介護職員として勤務していたお姉さんは今、産休明けで同ホームの看護助手を務めている。
食事の介助をする藤原さん。一人ひとりが好むペースや、飲み込む力の強さにも配慮する
介護職員の担当業務は着替えや食事、トイレの介助や排泄交換、レクリエーションのお手伝いと幅広く、時間に追われて余裕がない時もある。
夜勤中はこまめに見回りをするが、睡眠時無呼吸症候群の入居者もいて、常に注意が必要だ。
気にかかることがあれば記録して、看護師の耳にも入れ、急変があったらすぐ対応できるよう、医務との連携も欠かせない。
配膳の準備も大切な仕事のひとつ。飲み込む力が弱い人には、汁ものにとろみを付けて出すなど、細かな配慮が欠かせない
「仕事は楽ではありませんが、ストレスが溜まることはありません。
人が当たり前にできることをお手伝いしているだけなのに、ささいなことで『ごめんね』と謝られたり、『ありがとう』とお礼を言われたりすると、もっとお手伝いしたい! この人たちのために頑張ろう! って思うんです」と藤原さん。
職員間でフォローしてもらえたり、ちょっとした気遣いで助かることも多く、お姉さんとのおしゃべりも元気の源に。
そして、職場にお手本にしたい先輩がいることが大きな励みになっている。
20代の藤原さんにとって、入居者さんたちは人生の大先輩。尊敬の気持ちと真心を込めて接する
「落ち着きのない方や、機嫌の悪い方も、その先輩がお世話をすると笑顔になるんですよ。
話し方や介助の仕方を見習いたいと、日々勉強中です。
入居者さんは長年生きていらして人を見る目があるから、ごまかしのない本当の自分でいないと見透かされてしまいます」。
社会人としてどう働くかだけでなく、一人の人間としてどう生きるべきかまで考えられる福祉の道。
やりがいのある職場を選んだことに迷いはない。来年の介護福祉士受験も視野に入れ、仕事にいっそう力が入る毎日だ。