住み慣れたまちで、この先も自分らしく。利用者と家族の想いを叶える場所
想いに寄り添い、支える
富良野スキー場の麓、十勝岳連峰を見渡す丘に建つ「すまいるふらの」。富良野市民にとって故郷の四季が身近に感じられる場所だ
ここに暮らす高齢者の方々も職員も、みんなが笑顔でいられる場所に—。
そんな想いを込め、平成23年に誕生した「すまいるふらの」。富良野初の在宅介護サービスが受けられる住宅型有料老人ホームとして、住み慣れたまちで自分らしい暮らしが送れるようサポートしている。
緑豊かな山裾に、「すまいるふらの」を訪ねた。
入口脇の事務所は、壁も仕切りもないオープンな空間。訪問者が来れば、職員の誰もが笑顔で「こんにちは」と声をかけてくれるのが気持ちいい。
「設立当初は富良野になかった形態の施設。市民の理解が得られるか不安もありましたが、やって良かった」と、施設長の大西さん
迎えてくれたのは、施設長の大西三奈子さん。小学生2人のお母さんであり、約50人の職員を束ねる株式会社すまいるふらのの代表だ。
「入居している方が生きたいように生きる、暮らしたいように暮らすって、どうすればできるんだろう?って、ずっと考えていたんです」
施設設立の出発点をこう振り返る。
富良野市内で介護の仕事に励み、介護福祉士やケアマネジャーの資格を取得して経験を積んできた。人を支えることにやりがいと喜びを感じる一方で、食事や就寝の時間、病院の選択などに決まりごとも多く、「自分が望む暮らしがしたい」という声に力になれないことが歯がゆかった。
もっと自分にできることがあるはず。
その思いを共有した現会長と立ち上がり、試行錯誤しながら笑顔が集まる場をつくりあげた。
「ここでは病院選びやデイサービスの利用、家族との外出・外泊も自由。心地よく暮らしていただけると思います」
柔らかい口調の中にも、強い意志と自信が見える。
壁に貼られた行事の写真から、楽しそうな様子が伝わってくる。毎月行う誕生会のほか、地域との関わりや季節の変わり目を大切にした行事も多い
入居者の表情はとても穏やかだ。
ここで暮らす方々からは生きる意欲を感じる、と大西さん。
「『来年の誕生日が楽しみ』とか、入院しても『すぐに帰ってきたい』という方や、『自分にできることがあったらやらせて』と言ってくださる方もいます。決して完ぺきな施設ではありませんが、一人ひとりの考えを尊重しながら、満足していただけるサービスを提供したいと思っています」
貼り絵、体操、ボールゲームなど、午後は毎日さまざまなレクリエーションが行われている
細かな目配り気配りを徹底し、充実したサービスを支えているのが、全職員に浸透している会社の理念だ。
「入社後の研修や毎朝行うカンファレンス、管理職への指導を通して、相手の立場に立って考え、支えることの大切さを繰り返し伝えています」
面接で最も重視するのも、「思いやりがあるかどうか」だ。
もちろん介護のプロとして仕事する以上、“お手伝いさん”感覚ではやっていけない。
入居者約50人のうち、7割は認知症。高齢者の安全を守れるよう、未経験者でも正しい知識と経験が身に付き、一人で自信をもってケアができるまでは先輩スタッフがマンツーマンで指導。会社が費用を負担して資格取得を後押しし、研修会にも参加してもらうなど、教育を徹底している。
今年1月、副施設長になった中村さん。スタッフを指導する立場に変わっても、「現場から離れるのは寂しい」と、介護に直接関わる機会を持つようにしている
副施設長の中村美幸さんに話をうかがう。
介護員の母親の影響もあり、高校卒業後は介護の道に進んだ中村さん。最初に勤めたデイサービスで、たまたま出会ったのがケアマネジャーとして来ていた大西さんだった。
「利用者さんに寄り添ってやさしく話を聞く姿勢が素晴らしく、困りごとを解決する力や提案力の高さもすごい。端から見ていてそれが伝わってきました」
「尊敬する人の元で仕事がしたい」と、ここに入社したのが2年前。今年1月には、26歳の若さで副施設長に抜擢された。
現場で自ら動く立場から、スタッフを指導する立場へ。
「よりよいケアができるよう指導するのが私の役割ですが、まだまだ勉強不足。でも、やりがいは大きいです」
「生活の知恵や昔の日本の話をうかがったり。人生経験豊かな入居者さんから、いろいろなことを教えてもらえるのが楽しいです」
「介護の仕事はすごく面白い。責任も大きいですが、これだけ人の人生に関われて、共感できる仕事はないと思うんです。これからの人生をどう元気に過ごしてもらおうか、どんなことをしたら楽しいかなって、いつも考えています」
真剣に人のことを想う。それは入居者の家族に対しても同じ。
体調を心配して電話をくれた家族に、「熱は出ましたが、ちゃんとご飯は食べられていますよ」と言葉を添えれば、安心感は違う。
「もし将来自分が選ぶなら、やっぱり思いやりをもってケアしてくれる施設を選びたいですから」
施設が穏やかな雰囲気なのは、職員もイキイキしているからだろう。
自分たちが健やかでなければいい仕事はできないし、家族と過ごす時間を大切にしてほしい。子育て中のお母さんが多いこの職場では、施設内に職員の子どもを預かる保育室も備えている。
保育部門のリーダーとして、4人のスタッフをまとめる渡邊さん。より自信を持って仕事に臨めるよう、保育士の資格取得を目指している
保育部門のリーダー、渡邊しのぶさんは、芦別で7年間、幼稚園の教員を務めて結婚を機に富良野へ。託児は未経験ながら、2人のお子さんを育てるお母さん。実体験があれば大丈夫と採用され、4年になる。
子どもたちを連れて、施設のホールへ。小さいお子さんとお年寄りが触れ合う時間は、自然と笑顔が生まれる幸せなひととき
「ここは、小さいお子さんとお年寄りの方々が触れ合えるのがいいですね。子どもの笑顔は元気の源。お年寄りの笑顔を見るのも、うれしい時間です」
保育部門のリーダーとして、4人のスタッフをまとめる渡邊さん。より自信を持って仕事に臨めるよう、保育士の資格取得を目指している
入社時の託児スタッフは、渡邊さんのほかに1人だけ。その後徐々にお子さんもスタッフの数も増え、現在は4人体制で9人のお子さんを預かる。
「子どもは敏感です。職員間の雰囲気はすぐ子どもたちに伝わるので、みんなが気持ちよく仕事できる環境を作ることが私の仕事」
小さいお子さんがいるスタッフは無理のないシフトにしたり、自分自身も子どもの行事がある日は退社時間を早めたりと、工夫しながら働いている。
「学校が休みの日は、小学生の娘と一緒に出勤して、仕事のお手伝いをしてもらうこともあります。お母さんが働いている姿を、間近に見られるのって、いいですよね」
お二人に話を聞いた後、大西さんが食堂へ案内してくれた。ちょうどお昼ご飯の時間。
わずかな時間を見つけては、入居者に声をかける大西さん。お年寄りの目線に合わせ、寄り添うことを忘れない
「よく眠れてる?」「ゆっくりしていってね」
和やかに食事するお年寄りに、一人ひとり声をかける大西さん。忙しい日々の中でも、毎日食事を共にしているそう。
食事にはできるだけ地域の旬の食材を使い、あたたかい状態で出す。味のチェックや、食事中の様子への目配りも欠かさない。
また、リクエストを献立に反映したり、夏は外でジンギスカン、冬は鍋も楽しむ。
施設の看板犬「スマイルちゃん」。人懐っこく、いつもみんなの側にいる人気者だ
「少しでも介護に興味があるとか、高齢者の方と触れ合ってみたいとか、人に興味がある方は、ぜひ気軽に遊びに来てくれれば。ここは、いつでもフルオープンです」
施設長の大西さん(右)と副施設長の中村さん(中央)、保育部門リーダーの渡邊さん(左)。「すまいるふらの」を支える頼もしい女性たちだ
今年6月には、目の前の敷地にグループホーム、小規模多機能型居宅介護施設、地域交流館もオープン。たくさんの笑顔が集まる場所が、またひとつ、花開く。