心を通わせ、一緒に笑い合える喜び
一人ひとりの障がいに向き合い、チームワークでサポート
「北の峯学園をはじめ、女性職員の割合が70%と高い「富良野あさひ郷」
障害者福祉、高齢者福祉、保育、3つの柱で地域の福祉を支える「富良野あさひ郷」。
1974年7月に法人設立、同12月に知的障がい者更生施設「北の峯学園」が法人として最初の事業を開始した。
開設から30年以上経った2008年に全面改築。6つのユニット(寮)ごとに支援スタッフが編成されている
2008年には建物を全面改築。全居室の個室化など、入所者により快適な環境を整えている。
20代から90代まで100名あまりの知的障がい者が暮らし、その日々を施設長や嘱託の医師を含めて80名以上の職員が支える。
職員の大半は食事や入浴の介助など直接的に生活に関わる支援員で、20代が中心だ。
すぐ近くには、障がい者が調理や接客などを行い、地域交流の場にもなっている系列レストラン「WORKSHOP北峯舎」も
施設長の酒井亮さんは27年前に異業種から転職した。
北の峯学園で仕事をしたいと思ったのは高校生の時の入院がきっかけだった。
同じ病室には学園の入所者もいて、初めて接する知的障がい者その人の無垢すぎるほどの純粋さに触れて感動。
同時に、付き添いの学園職員から障がい者支援のやりがいや喜びを聞いて興味を持った。
高校卒業時には職員募集がなかったため、一旦は札幌で就職するが、4年後に欠員が出て思いを叶えた。
奥様も「富良野あさひ郷」で働く酒井さん。家では掃除・洗濯をしたり、週末にはお母様の買い物に付き合うなど、家族思いな一面も
「人と接する仕事に抵抗がなく、やさしい心があれば、誰でもできると思いますよ」と笑顔で話す酒井さん。
福祉の仕事で重要なのはチームワーク。
利用者と関わりを深めて、相手をよく理解することはもちろん、他の職員との連携も欠かせない。
高齢化が進むなか、個々人に合った身体の機能訓練を構築中。さまざまな検討課題もチームワークで達成していく
そしてもう一つ、いろいろなことに気づける細やかな目配りも大切だ。
例えば、利用者の中には体調が悪くても自分から言い出せない人もいる。
いつもと違う仕草をしていたら何かのサインだと気づくこと、小さな変化も見逃さず敏感に察知することが利用者を守ることにつながる。
それは同僚職員に対しても同じ。
元気のなさや悩んでいる様子に気づければ、解決できることも多い。
悩める職員自身にも気持ちを前向きに切り替え、うまくいかなかった原因を理解して次のステップにつなげていく姿勢がほしいが、そうなるためにも周りの職員のフォローが大切だという。
「5年10年と経験を重ねて責任ある立場になればなるほど、利用者と職員の双方に対して“気づくこと”は必要になってきます」
利用者のソフトボールチームの監督もしていた酒井さん。今まで勝てなかったチームに全道大会で逆転勝ちした時のみんなの笑顔は今も忘れられない
酒井さんはかつて草野球の強豪チームだった北の峯学園のエースピッチャーを務め、今は監督として野球部の陣頭に立っている。
その野球部の一員でもある佐藤高央さんは、北の峯学園ひとすじ18年。
底抜けに明るく、学園のムードメーカーとして利用者・職員の信頼が篤い。
デスクワークが多くなったが、スタッフが急病で欠勤・早退した時などは佐藤さん自らがヘルプで入ることも
支援係長として支援員をリードし、現場のサポートやシフト編成などの業務を担う佐藤さんは、うまくいかずに悩んでいる若い職員に対して、失敗も含め自分の経験談を伝えるようにしている。
「自分で気づいてもらわないといけない時、ヒントを出したほうがいいケース、全面的にサポートが必要な場合といろいろありますが、なるべくなら方向性だけ示してあげて自分で考えてもらうのがいいと思っています。さまざまな場面で迅速・的確な対応ができるようになるためにも、考えて行動する経験値は増やしたほうがいいですからね」
「しんどい時もありますが、利用者さんと話していると癒やされて元気になります」と佐藤さん
この仕事で一番必要なことは?という問いに、佐藤さんは「思いやり」と答える。
そして思いやりの気持ちは、学園の仕事をする中で高められるものだとも話す。
自分自身、この仕事を始めてから、障がいを持つ人たちと関わることで得られる喜びや充実感を感じ、楽しさを覚えたと振り返る。
学園に少しでも興味があれば、ぜひ一度見学してほしいと佐藤さんはいう。
「一般の方も来ていただける学園祭などの行事や、利用者さんの作品を飾るちょっとしたアート展もやっています。こうした機会に、学園の雰囲気を感じていただければ」
左から、酒井施設長、生活支援員の大高さんと中内さん、支援係長の佐藤さん
見学や実習の体験がきっかけで職員に応募したと話す、生活支援員の中内亨則(たかのり)さんと大高柚奈(ゆな)さんは共に入職4年目。
同じ旭川の大学に通い、中内さんは高齢者福祉を専攻、大高さんは幼稚園の先生を夢見ていた。
“福祉”を学んだとはいえ、二人にとって“障がい者”はまったく未知の領域。
それでも見学や実習を通して、北の峯学園の仕事に就きたいと思うようになった。
中内さんは食事の介助や入浴支援のほか、日中活動の支援も担当している
中内さんはその時のことを、「利用者さんも職員も明るくて、特に利用者さんがすごく生き生きして見えた」と話す。
そんな様子に「毎日笑って仕事ができたらいいなぁ」と思い、応募を決めた。
日中活動では陶芸や木工などのモノづくりを楽しんでいる
仕事を始めた頃、「難しい」と感じたのは利用者との距離感だった。
「利用者さんが望むイメージと僕の支援にちょっとズレがあって。試行錯誤を繰り返しました。仲良くなったからと近づきすぎてもダメですしね。利用者さんの居室を掃除していた時に、僕が“こっちのほうが使いやすいんじゃないか”とモノの位置を少しずらしたら、“俺はこっちがいいんだ”と反感を買ってしまったこともあります」
うまく行かない時は先輩を手本として観察し、その姿に学びながら実践してきた。
今では、自分から働きかけるだけでなく、利用者から距離を縮めてくるような接し方をされることが増え、嬉しいと話す。
「利用者さんに安心して身を任せてもらえるように、もっと関わりを深めていきたいですね」と目を輝かせる大高さん
大高さんは事前に、同じ「富良野あさひ郷」で働く4歳上の姉から支援現場の話を聞いて少しは知っていた。
でも実際に接して、「北の峯学園」で働きたいという思いをより強くした。
実習を行ったのは、軽度の障がいを持つ人たちが対象の「サポート・ステーション栄町」。
「私が実習を終える時に泣いてくれたり、みなさんすごく純粋で。私が忘れていたことや当たり前に思っていたことも、実は大切なことだと気づかせていただきました。障害福祉の施設は人として、すごく深くて、いい勉強ができる場所なんじゃないかと感じたんです」
実は入職してみて、イメージと違うと感じた部分はあったそう。
就労継続支援B型事業も行っているサポート・ステーション栄町では、就労を目指す軽度の障がいを持つ利用者が多く、その方々と一緒に仕事をして頑張ろうという感覚。
対して北の峯学園は障がいの重い若い人と高齢者が中心で、日々の生活をサポートするため、利用者側は信頼感を重視する。
幼い頃から富良野のカラオケ大会に出るなど、歌が大好きな大高さん。「有給休暇も取りやすいので、上手に使ってリフレッシュしてます!」
「新しく来たばかりの見慣れない人、心を許していない人に、体を触られたり、着替える時に裸を見せるのは一般の方でも嫌ですよね。頭ではわかっていても、最初の頃は拒絶されると辛くて。でも、辛かった分“大高さんにやってほしい”と思ってもらえた時はすごく嬉しくて、喜びが倍になりました」
「あなただから、やってほしい」と思ってもらえるために、どう関われば良いかを考えるのが楽しいと話す。
滝上町出身の中内さん。祖父母と一緒に暮らしていたことから高齢者の手助けをしたいと思い、自然と福祉の道を選んでいたという
利用者さんが「こうしたい」と思うことができた時、一緒に笑顔で喜び合えることが、この仕事のやりがいと話す中内さん。
まだまだ未熟だけれど、いつかは先輩職員のように、姿を現しただけ、目が合っただけで、利用者さんが安心できる存在になりたいと願う大高さん。
毎朝行われる朝礼には、その日勤務のスタッフが集い、情報を共有し、必要な対応を確認し、1日がスタートする
二人の思いに、酒井さんの言葉が重なった。
「おひさま保育園」は「富良野あさひ郷」の3本柱のひとつである「保育」部門の拠点として2017年12月に開園。職員価格で利用できる企業主導型保育事業の開設が、働くパパとママをさらに強力にサポートする
「職員の多くは知的に障がいのある人たちに魅せられて、この仕事を楽しく続けさせてもらっています。
よく“福祉の仕事って大変でしょ”と聞かれますが、そんなことはありません。
大変なのは他の仕事と一緒ですし、この仕事でしか得られない喜びがたくさんありますから」
「富良野あさひ郷」では障害者福祉部門で6つ、高齢者福祉部門で7つの施設・事業所を運営。2017年から保育部門も開設した