ワイン醸造所の一員として
ぶどうの品質に目を配る
富良野市ぶどう果樹研究所
業務製造課 業務係
池原作務さん
沖縄県出身。大学院までの6年間を網走で過ごし、就職で富良野へ。ワイン工場の売店や市内外のイベントや物産展で販売を担当することもあり、お客さんの反応がダイレクトに聞けるのが励み、という。
「ワインは農作物」だといわれる。
原料用ぶどうの出来が、ワインの品質を左右するからだ。
「ぶどうの出来が良くないと、どの酵母を使うかなど醸造工程でいくら工夫しても、根本的な味の修正はできません。だからこそ“良いぶどうを作る”というやりがいは大きい。栽培だけでなく、ここは醸造、販売まで、すべての工程に関われるのも魅力です」
こう話すのは、2016年春から富良野市ぶどう果樹研究所で働く池原さん。技術者として、原料用ぶどうの品質管理や契約農家の技術指導を担当している。
同研究所は、1972年に自治体がワインを製造・販売する道内2番目のワイナリーとして誕生した。昼夜の寒暖差を利用した高品質のぶどうで作られる「ふらのワイン」は、国内外で高く評価され、市を代表する特産品として知られている。
池原さんがワインの魅力に出会ったのは大学時代。食品関連の仕事に興味を持ち、出身地の沖縄から、網走にキャンパスを置く大学の食品香粧学科へ進学した。研究室でワインの香りと酵母の遺伝子の関連を学ぶうち、その面白さに惹かれていったという。
春から秋にかけては、市直営農場や契約農家の畑を見て回る。「ぶどうの生育状況を確認するため、週に何度も畑の巡回に出ます。虫や病気が出ていた場合は対策をお願いしたり、ほかの農家さんにも事例と対策を伝えたりして、良いぶどうを育てるための情報共有もしています」
いくつもの広大な畑を管理するのはとても大変そうだけれど、実際どうなんだろう。
「経験豊富な農家さんが相手なので勉強は欠かせないし、接し方にも気を遣います。でも、畑に出ている時が一番楽しい」と池原さん。
「ぶどうは房に光を当てた方が糖度が高くなるんですが、ただ葉を取ればいいというものでもなくて。葉の取り方や枝の切り方など、工夫次第で出来が変わるのが面白いんです。もちろん、収穫も醸造も年に1回しか出来ませんから、責任重大です」
ほぼ自然のままの状態で通年16℃に保たれている熟成室。色や香り、味を定期的に確認して状態を確かめる
夏は種苗センターと畑を行き来し、冬はワイン工場で事務作業が多い。「冬も暇になることはありません」と池原さん
収穫後も、翌年のための剪定作業や苗の準備、農家のための市や国の補助金申請など、事務作業を中心にさまざまな業務が続く。
「富良野を代表する商品に関われるのは、自分の誇り」と、家族や親戚に果汁やワインを送った。「おいしいと好評でした」とうれしそうに話す。
昨年初めて関わった新酒は、ぶどうの収穫量の減少で製造本数が少なく、残念ながら市内中探し回っても1本も買えなかった。
「飲んだのは、職員全員でテイスティングした時の一口だけ。残念だったけど、今年はそうならないようにもっとぶどうを作ろう!ってやる気も出ました」
ワインを飲むのも好きで、家に30本ほど入る大きなワインセラーを買ったそう。
少しずつ買い足しているが、「まだ家で一緒にワインを開ける相手はいません。でも、もしいたら何本でも開けちゃいそう」と、人懐っこく笑った。
目標は「自分で新しい商品を作ること」。
いつかその日が来るように、一歩を踏み出したばかりだ。