家族の記念日を応援する、遠い親戚のようなおもてなし
宿は旅人の「第二の我が家」
富良野スキー場の目の前に立つ、お城のようなホテル。夜はイルミネーションが華やか
「赤ちゃんと一緒でも泊まりやすい」「記念日の旅行がステキな思い出になった」。
そんな評判が口コミで広まり、全国からリピーターが集まる「ホテル ナトゥールヴァルト富良野」。
ラベンダー観光やスキー旅行、修学旅行といった従来の客層に加え、子育てママの利用が年々増えている。
インテリアやアメニティにこだわり、ゆったりとくつろげる客室。
2014年、子連れ旅行を応援するミキハウス子育て総研認定「ウェルカムベビーのお宿」の認定を受け、2015年には「楽天トラベルアワード」レジャー部門で、北海道エリア銀賞を2年連続で受賞。
2016年には世界最大の旅行口コミサイト、トリップアドバイザーの人気ランキング「トラベラーズチョイス ホテルアワード」の家族向けホテル部門で国内19位に輝いた。
創業は2006年、最大収容人数は約220人というホテルが、全国各地の高級リゾートホテルと並ぶ評価を得ているのはなぜか?
人気の秘密はホテルを「旅人の第二の我が家」と考え、宿泊客を「遠い親戚」のようにもてなす真心こもった接客にある。
新婚旅行や誕生日などのお祝いで訪れた人には、1枚1枚手描きのウェルカムボードを。
生後6カ月のハーフバースデーを迎えた赤ちゃんには、かわいらしい王冠を。そんな心づくしの用意で、思い出づくりのお手伝いは万全だ。
休憩・談話ルーム「ふらの広場」のおやつコーナー。お菓子をつまみながら自由にくつろげる
館内にはいくつもの記念撮影スポットが設けられ、さらに「北の国から」など倉本聰氏のドラマや、富良野の歴史をテーマにした手作りの展示も。
ロビーの横には、ウェルカムフードのジャガイモや焼きマシュマロなどを楽しめるコーナーがあり、地域のお祭りのような温かみを感じさせる。
「顧客満足経営」に挑み続ける小林社長。富良野青年会議所の理事長を務めたことも。お客様の生の声を共有し、日々、接客のバージョンアップを重ねていく
代表取締役の小林英樹さんは、ホテルの厨房などで経験を積み、今も趣味と視察を兼ねて国内外の宿を泊まり歩く。
自分自身がよその宿でいいなと思ったことも、スタッフが現場でキャッチしたお客様の要望も、どんどんサービスに取り入れる。
即断即決、即実行がモットーの行動派だ。
「お客様のアンケートを集計して、ご要望をまとめて会議にかけて、なんてことをしていたら、課題がたまっていくばかり。
うちはスタッフがお客様に積極的に声をおかけして、何かヒントを得られたら、すぐ朝礼で支配人が現場に振ります」と小林さんは胸を張る。
調理の経験もある小林社長から、お祝いのデザートプレートを準備するスタッフにアドバイス
子育てママのお客様から「朝食バイキングにも、離乳食のお粥があったらうれしい」と聞けば、翌朝から提供する。
赤ちゃん連れの旅行は荷物が多くて大変そうだと思ったら、かさばるオムツを持ち運ばずに済むよう、館内に在庫を常備する。
そうして隠れたニーズを掘り起こして対応できるのも、スタッフの思いやりの心があってこそ。
「うちの接客の基本は、自分はお客さんに何をしてあげたいか、自分がお客さんだったらどうしてほしいかを考えること。うちのスタッフは、人が好きな人じゃないと務まりませんね」。
そう語る小林さんの目の輝きに、社員への信頼を感じた。
土産品コーナーで、オリジナルキャラクター・ナルちゃん&ヴァルちゃんのぬいぐるみ制作について相談中
誰もが楽しい時間を過ごせる魔法の宿は、以前はどこにでもありそうな普通のホテルだった。
生まれ変わったのは、震災などの影響で集客に苦戦するようになったのがきっかけだという。
資本力や設備では大型リゾートホテルにかなわない分、小さな宿だからこそできることをと、サービスに特化した「顧客満足経営」に方向転換。
わずか数年で経営を回復させ、小林さんが東京や大阪のビジネスセミナーにゲスト講師として招かれるまでになった。
支配人の森川清美さん。森野福郎のペンネームを持つ詩人でもある
その劇的な変化を支えたのは、女将のゆりえさんと、支配人の森川清美さんをはじめとするスタッフの団結力。
森川さんは芦別市でホテルマン人生のスタートを切り、観光ホテルチェーンに転職してからは、道内各地のホテルを管理職として支え続けた。
芦別市へ帰郷しこの宿の一員となって2年目から、サービスの改善を積極的に支援するように。食事の満足度を高める工夫を重ね、フロント機能の強化などを進めてきた。
森川支配人の詩とフクロウのイラストが描かれた露天風呂。温かみがある雰囲気で、心もポカポカに
「バイキング会場で『お味噌汁が煮詰まっていて塩辛い』という声を聞き、お食事の時間中ずっと、小鍋で作りたてを少しずつ提供するようにしました。
ご飯も常に炊きたてをお出しできるよう、炊飯器20台を15〜20分間隔で炊き上がるようにセットしているんですよ」。
柔軟な発想と手間暇かけたサービスが口コミで評判になり、旅行会社に売り込みに行かなくても、ネットで宿泊予約が入るようになってきた。
「顧客満足を最優先するようになってから業績が伸びて、社長は売り上げ目標やお金の話をしなくなりました。お客様は喜んでくださっているか、お客様に何をしてさしあげようかと、そんな話ばかりです。社長と私はハトとフクロウコンビ。社長がハトのように飛び回っている間、私はフクロウのように森を守っています」。
「第二の我が家」で休日を楽しむお客様の記念写真や、帰宅後に届いたお礼状を展示
お客様へ記念日のお祝いに贈る木のプレートを制作中。自作の詩を丁寧に手書きする
笑顔でそう語る森川さんには、森野福郎のペンネームで自作した詩をお客様に贈るという素敵な特技も。
ある時は支配人として、従業員が自分の時間を確保してリフレッシュできるよう、業務の効率アップを図り、またある時は詩人として、富良野の自然を繊細につづる。
二つの顔はどちらも、富良野を訪れる人をもてなす心と深くつながっているようだ。
入社して3カ月目の佐藤凪紗さん。ネームプレートにはハート型の初心者マークも
新人の佐藤凪紗さんは、2016年4月に中途採用で入社したばかり。
富良野生まれの富良野育ち、生粋の富良野っ子の22歳だ。
市内の高校ではサービス業のスペシャリストを育てるコースで学び、3年間接客のアルバイトも。
卒業後さらに4年間接客のプロとして働き、他の職場も経験してみたいと考えるようになっても、住み慣れた土地を離れる気はなく、富良野市内で転職先を探した。
実はこのホテルの求人情報を見つけた時、どんな社風なのかはまったく知らなかったとか。
土産品コーナーには、富良野旅行の記念にふさわしい上質なクラフトも並ぶ
「地元の宿には泊まる機会がないので、名前は聞いたことがあるかな? くらいの感覚だったんですよ。でも面接で社長に初めて会った時に、『いい社長さんだな』と思って決めました」。
フロントをメインに日々の業務に取り組みながら、お客様との〝ナトゥールヴァルト流コミュニケーション術〟にもなじんできた。
「お客様と親しくお話しできるのが、とても楽しいです。『お子さんは何歳ですか』とか、ちょっとしたお声がけで喜んでいただけるのがうれしい」。
多彩なフクロウグッズが並ぶ土産品コーナー。温かみのある木工クラフトが豊富
新しい職場にも徐々に慣れ、自分自身の目標も見えてきた。
お客様から「観光ガイドブックに載っていないような、地元の人おすすめの場所を教えてほしい」と言われてすぐ思いつかなかったり、旅行客がお土産を選ぶポイントがピンとこなかったりすることもあるのだとか。
「これからは、もっと観光の勉強をしたいと思います。挨拶だけでも外国語を覚えたいし」。地元出身の佐藤さんにとっては、旅行客目線で故郷を見られるようになることが、さらにステップアップするための課題になりそうだ。
お客様をカラフルな花壇がお出迎え。花の手入れには、高校の園芸科の生徒たちが協力
今日もスタッフは、宿泊客一人ひとりに「明日はどちらへ行かれるんですか」「観光で何かお困りのことはありませんか」と声をかけ続ける。
お客様の生の声と笑顔が、ホテルの一番の宝物だ。