市民の健康づくりをしっかりサポート
自分自身が感じている体を動かす楽しさ、喜びを届けたい
富良野駅前に位置する「富良野市中心街活性化センター ふらっと」は、一面の窓から明るい日差しが降り注ぐ、開放的な空間
「職業柄なんでしょうね。朝の通勤時間、富良野駅近くの陸橋を上り下りする人、特に病院に向かうのだろう高齢者の方々の筋肉や関節の使い方をいつも気にしてみています」
富良野市民の元気と健康をサポートするための施設「ふらっと」の支配人、上野恭慶さん(50)。
同施設には、健康増進やダイエット、体力づくりを目的に、小学生から90代までの幅広い年齢層の富良野市民が集う。
種類豊富なマシーンが並ぶトレーニングルームに多目的プールがあり、スポーツ初心者から上級者までの幅広いレベルやプログラムに対応できるインストラクターたちを束ねているのが上野さんだ。
プライベートでもスポーツに勤しむ上野さん。冬季はクロスカントリーの競技大会にも参加
自身は水泳部出身。
大学時代はソウルオリンピック金メダリストの鈴木大地選手とチームメイトだったこともある。
スイミングスクールのコーチなどを経て、「ふらっと」を運営する「ふらのまちづくり株式会社」に就職。
現在でもプライベートでマラソンやクロスカントリーの大会に参加するなど根っからのスポーツ好きであることはもちろん、
「普段、筋肉の使い方や動かし方だとかをアドバイスしている立場なので、利用者さんたちに伝えたいことをまずは自分の体で試してみて、還元するというつもりで」打ち込んでいるのだとか。
「人材育成も今の自分の大きな課題」と上野さん。4月から個別指導ができるインストラクターを育てる講習を開催予定
「体を動かすことを突き詰めていくと、哲学になる」と上野さんはいう。
どういうことかというと
「毎日やろうと決めたことがあるとして、それがどうしても続かない。
そういうことってあるでしょう。自分の心に負けてしまうこと。
お客さまとはそういう話になることも多いんですよね。
その人1人1人の個性をみて、どんなアドバイスが響くか。
そういうことを考えることも仕事なんです。
だからこの仕事は結構奥の深い、面白い仕事だと思いますよ」。
さまざま器具が並ぶトレーニングルームには、思い思いに体を動かす人々が集い、汗を流す
お客様の体づくりを真剣に考えると、マニュアルにある指導法通りに行くことの方が少ないのだという。
「もっと速く走れるようになりたい」「体幹を整えたい」という人もいれば、
「肩が痛い」「関節が思うように動かない」など高齢者特有の悩みで訪れる利用者も。
「1人1人、悩みも違えば、体の使い方の癖や特徴が違う。そして目指すものも違いますからね。
そこをきちんと理解して本当の意味での個人指導ができるインストラクターを育てていくのが今の目標なんです」
と展望を語る。
トレーニングルームは高校生から90代までの市民が利用可能。プールや多目的室ではベビースイミングやヨガ、ダンススクールなどのプログラムも数多く開催される
勤続7年目のインストラクター、畑中あゆ子さん(26)は、富良野生まれ富良野育ち。
部活動での卓球やテニスの経験はあったが、子供の頃はどちらかといえば引っ込み思案。
インストラクター志望だった訳ではないのだという。
「先輩にインストラクターを目指してみてはどうかと声をかけていただいて。
その時は自分のシェイプアップにもつながるし良いかも、という発想でした」
と笑う。
「お客様に体を動かす喜びを伝えたい」という畑中さん。利用者からは「あゆちゃん」の愛称で親しまれている
指導者になるための勉強に取り組み、利用者にうまく自分の思いを伝えられないというもどかしさなども経験した。
「自分自身が体を動かすことを楽しまなくてはだめなんだ」と同僚たちと励まし合い、「おかげさまで、体の調子がいいよ」という利用者の声が届くと、「もっといいインストラクターになりたい」という欲が出る。
いつしかこの仕事が天職だと感じるようになった。
幅広い世代がスポーツを楽しみ、健康づくりに役立つサポートを目指して。スタッフの笑顔に、充実した毎日が表れている
利用者の中には小学校時代の恩師がおり「人の後ろに隠れているようなタイプだったのに、こんなに明るくなって!」と、驚かれたこともあるのだとか。
「体力がついたことで、自信もついたのかもしれません。
人と話すこともあまり得意ではなかった私が、自分の思いを言葉にできるようになったり。
疲れやすさも改善されたので、休みの日に活発に行動できるようになったり。
体が元気だと、心も元気になれるんですね。
こういう自分自身が実感した喜びを、お客様に感じてもらいたい。
今はひたすら、それだけを目標に毎日を過ごしています」と目を輝かせる。
子供の頃は引っ込み思案なところもあったという畑中さん。インストラクターの仕事を経て、より明るく前向きになったという
「10年後の自分の姿を想像できますか?」という質問にとびきりの笑顔で答えてくれた。
「今よりもっと上手に体を動かす喜びを伝えられるようになっていて、もっとたくさんのお客様に喜んでもらえるインストラクターになっているはず!
後輩からも頼りにされるようなアドバイスや指導ができるようになっていたいですね。
また、そうなれるように頑張っていくつもりです」
長寿社会となり健康志向も高まる中、ふらっとのようなスポーツクラブを活用し、さらに健康への意識が高まることに期待したい
子供の頃から、絵葉書や写真を眺めているのが好きで、そして決まって心惹かれる風景があったという。
緑豊かな山並みや森の姿だったり、大雪原の中にぽつんと佇む1本の木を写したものだったり。
だから、生まれ育った関東の地を離れて「いつか北海道で暮らす」ということは、髙木美里さん(27)にとってはごく自然なことだったのだという。
適度な運動、バランスのいい食事、十分な睡眠。そして仲間との会話は健康維持に欠かせない。利用者との交流や情報交換も、日課のひとつだ
「両親は、私が小さいころから北海道に憧れていて、中学生くらいからは “住んでみたい” と考えるようになっていたことを知ってたので、
驚きつつも反対はしませんでした」
と穏やかな口調で話す。
柔らかな物腰と丁寧な対応は利用者にも喜ばれ、自然と笑顔がこぼれる
富良野に引っ越してきて1年弱。
北海道で暮らして初めて迎えた今年の冬。
水道管の凍結や交通の不便さなど、覚悟はしていても厳しい冬を毎年乗り越えなければならない街で暮らしていることを実感した。
それでも高木さんはいう。
「真っ白な雪を見ていたら『あぁ、あの絵葉書と同じだ』って思い出すんです。
少し暖かい日は目的もなくぶらぶら歩いて、山並みを眺めます。
ずっと憧れていた景色の中に自分がいるんだなぁと思ったら、
仕事にしろ日々の暮らしにしろ、大変なことが多少あっても気になりません」
と真っすぐに目を向けてくれた。
富良野の原風景に恋し、この街で暮らすことを決意した髙木さん
学生時代に管理栄養士の資格を取り、病院勤務の経験もある。
健康をサポートすることに興味があり、この施設で働くことを選んだ。
現在の業務の中心は、フロントでの受付対応や初心者向けにトレーニングマシーンの使い方のレクチャー。
勤務に加えて、講習なども受け、空いている時間や休みの日には、自身の体力づくりにも励む。
「受付での対応やマシーンの使い方など、覚えなくてはならないことが多くて、大変な部分はもちろんあります。
でも人と接する機会も多い仕事なので、知らない人ばかりの街に来た私でも顔を覚えてもらえるのがすごくうれしい。
みんなのんびりしていて優しくて。本当にいい街に来たなぁと思います」。
富良野市中心街活性化センター「ふらっと」に勤務する3人。富良野市民の健康をサポートするのが使命だ。
この街で暮らす人の健康づくりのために働く3人。
体を動かすことが好きで富良野が好きで富良野の人が好きで。
「健全な魂は健全な肉体に宿る」。
使い古された言葉だけれど、でもこの3人のためにあるような言葉だと思う。