味と接客で世界にチャレンジ
麺からタレまで手作りに徹し、お客様に喜ばれるラーメン店へ
2016年12月、中国・上海「拉麺競技館」に出店。PRパネル前の富川哲人代表
1997年7月、麓郷で「山麓中華そば とみ川」を開店し、20周年を迎えた有限会社とみ川。
富良野市内には本店のほかに「富川製麺所」とフラノマルシェ2の「煮干中華 ゆきと花」があり、
新千歳空港にも支店をオープン。
2016年12月には、中国・上海のショッピングモール内にある「拉麺競技館」に出店するなど、
富良野から津軽海峡どころか国境を越えて、世界へも展開している。
富良野の3店舗で提供する麺は、すべて自家製粉、そして自家製麺。
チャレンジ精神旺盛なその店舗展開を支えているのは、長年取り組んできたブレのないラーメン作りだ。
「石臼で小麦を挽く自家製麺からタレまで何でも“自分で作る”のが、とみ川です」と統括店長の楠瀬利和さん。
富川哲人代表が信頼する最強の右腕で、上海に行っていることが多い代表に代わって日本の店舗を取り仕切っている。
もともとラーメン好きの楠瀬店長。全国各地の名店もほぼ網羅している
大阪出身の楠瀬さんは、麓郷の本店に開店2日目から通う常連客だった。
20歳のころにバイクツーリングで富良野を訪れ、夏は富良野の農家で働き、
冬は大阪に戻って飲食の仕事に就くという暮らしを5〜6年続けていた。
素材の状態をチェックしながら、毎日、美味しい麺づくりに情熱を注ぐ
とみ川を手伝うようになったのは、全国各地の物産展やラーメンのテーマパークへの出店に力を入れ始めた頃。
「ちょうど大阪の大丸百貨店で催事があって、それを手伝ってくれというのがきっかけでした」
そして2004年に入社。とみ川のアグレッシブな展開を縁の下で支えてきた。
無化調とあわせて、石臼挽きの小麦を使った麺も、とみ川の大きな特徴
何でも“自分で作る”とみ川は、ラードも豚肉の脂を溶かした自家製。
「単に溶かすだけじゃなくて、ネギで香りをつけたり、いろんな加工をしています」と楠瀬さん。
既製品は一切使わず、化学調味料不使用の“無化調”を貫いている。
「お客さんは誰も待ちたくないのが、ラーメン」。だから、手早くスピーディーに、抜かりなく
「とみ川のラーメン作りには、僕が一筋に歩いてきた和食の世界に通じるものがありました」
と話す田中靖人さんは、入社2年目。
前職では、ホテルの宴会料理を担当。
とみ川には、代表の独創的な考え方とともに、出汁から取って美味しさを追求する“無化調”の姿勢にひかれ、スタッフの求人に応募した。
和食の料理人として腕を磨いてきた経験と、新しい仕事もどんどん吸収していく真面目さが買われ、「富川製麺所」の厨房を任されている。
お子さんたちの誕生日には、得意の巻き寿司を作るという田中さん
ホテル勤務時代にはなかった、物産展などでの全国各地への出張も「いい刺激になる」と田中さんは言う。
「ラーメンに限らず、行った先で、いろいろ食べ歩いて勉強させていただきました。
さまざまな食から学んだことを、ラーメンに生かせればと思います」
休日には奥様と近隣の気になる店へ食事に出かけるなど、趣味と実益を兼ねた食べ歩きも楽しんでいる。
お客様の様子や店内、スタッフの動きに目を配り、とみ川を育てる楠瀬さんの存在が、代表を自由に羽ばたかせているのかもしれない
「食べることが好きじゃないと、美味しいものは作れないと思うんです」
楠瀬店長がそう話すように、田中さんを始めスタッフは食べること、作ることが大好きだ。
低温調理で、ピンク色に仕上げたチャーシューを出す店は、富良野界隈ではおそらく「とみ川」系列店のみ
入社間もないスタッフは、最初は楠瀬店長が作るのをひたすら見て、徐々に仕事を覚える。
数ヵ月経つ頃には、本店の厨房にメインで入ることも。
観光客が増え混雑がピークに達する夏には、人気店であるがゆえの試練が待っている。
一気に10人近くも来店することもあるので、
楽しみに待っている大勢のお客さんにいかに早くラーメンを仕上げられるか、
手順のアドバイスを受けながら、せっせと麺を茹で、スープを調え、具材を盛り付ける。
「スピーディーに、しかし決して手を抜かず」
これはとみ川全スタッフのモットーだ。
石臼で挽いた小麦をこの製麺機にかけて、自家製麺に
もう一つ、スタッフが「いつかできるようになりたい」と思う”憧れ”の職人技がある。
それは、麺などの食材の微妙な変化に気づくこと。
「麺は生きている」と話す楠瀬店長が、常日頃スタッフに伝えていることだ。
この麺が熟成され、最適なゆで時間で茹でられて、最高の食感と味わい、のど越しを作りだす
作りたての麺と1日2日寝かせた麺では、茹でる時間も変わってくる。
基本になる茹で時間に従えば、ほぼブレなく、いい状態には仕上がる。しかし、
「より旨く仕上げようと思ったら、麺の熟成に合った時間で茹で上げる。そうするとベストの答えが出るんです」と店長。
無化調で保存料不使用、すべて手作りのラーメンだからこそ現れる微妙な変化。
毎日素材に触れているうちに、自然と変化に気づけるようになるという。
丁寧な下ごしらえの積み重ねが、最高の1杯へ
とみ川が大切にしているのは「旨いラーメン」だけではない。
サービス業として、お客さんに気持ちよく帰ってもらえる接客にも重点を置いている。
「ラーメンを食べるだけじゃなくて、とみ川の店に行ったら、例えば厨房にいる“あの人”に会えるっていう、そんな感覚で来ていただける店ですね。
だから、お客さんとも積極的に会話してほしいと思ってます」
最初はうまく話せないものだが、「暑いですね」でも何でも話しかけてみれば、だんだん慣れて、話題が広がっていく。
店長自身もよくお客さんに声を掛けるが、取っ掛かりは大体「お客さん、どこから来たの?」。
そこから、その土地の話につながり、会話になっていくという。
富良野市日の出町の「富川製麺所」前で。統括店長の楠瀬利和さんと、とみ川入社前はホテルの宴会料理を担当していたという田中靖人さん
求人の募集要項に「人を喜ばせるのが好きな人」と書いているのも、接客重視だから。
富良野という場所柄、年に1回だったり、2年に1回しか来られないお客さんもいるが、その人たちも“大切な常連さん”。
美味しく食べて、楽しく会話して、気持ちよく帰っていただいて、また来てもらう。
「また来よう」と思ってもらうには、人間味のある接客は欠かせない。
ホテル勤務時代には厨房でひたすら調理をしていた田中さん。接客やレジ打ちは、とみ川に入って初めて経験
上海を皮切りに、海外でさらなる出店の可能性も探っている、とみ川。
お客様の胃袋へ最高の1杯を運ぶ瞬間を待ち構えている
「中国とは限りませんが、スタッフには新しい展開があったときに、責任者として現地に行けるくらいのレベルになってほしいんですよね。
そういう期待を、一人ひとりに持っています」
足元はブレずにしっかり、でも心は熱く、富良野から世界を目指す。
こだわりのラーメン作りから接客まで学ぶことは多いが、やればやるほど自分に残るものもどんどん増える。。
お店のユニホームには「絆」の文字
人気店を日々支える、とみ川のスタッフたちはそれを確信して毎日励んでいる。