農業界に収穫革命を起こすものづくり集団
自走式野菜収穫機の開発で農作業を効率化
ゴムベルトでニンジンの葉を挟んで引き抜き、葉の切断処理も自動化した大型自走式収穫機(写真はヤンマーにOEM供給中の2条掘りタイプ)
大型自走式ニンジン収穫機の国内シェアNo.1を誇る、オサダ農機の「スーパーキャロットル」。
その収穫の様子を初めて見た人は、作業の速さとスムーズさに驚くはずだ。
ニンジンをはじから次々と引き抜き、葉を根元から5mmの位置で正確に切断する作業まで自動化されている。
1台で人間約15人分の作業をこなし、傾斜や凹凸がある畑でも、雨が降ってぬかるんだ土地でも活躍する。
71歳の今も毎日つなぎ姿で機械の試作に取り組む、代表取締役会長の長田秀治さん。技術屋魂で開発と改良を支え続ける
製造開発をリードする技術者であり、経営者でもある代表取締役会長の長田秀治さんは71歳。自動車整備の分野で経験を積んだ、叩き上げのメカニックだ。
1972年に整備工場を起業して以来、毎日つなぎ姿で現場の最前線に立ち続ける。
工場には社員食堂を完備。今日のメニューはカレーライスとフルーツサラダ
長田会長が収穫機製造に挑戦したのは、創業から20年近く経った1990年のこと。道内有数のニンジン生産地である南富良野町で、深刻な人手不足に悩む農協職員から「ニンジンの収穫機を作れないか」と相談されたのがきっかけだった。
子供のころから機械いじりが大好きで、「人に何か頼まれたら『できない』と言わない」がモットーの長田会長は、農家の協力を得て、試作と試運転を重ね続けた。
愛用のスクーターで、工場の広い敷地を移動する会長。時間を惜しんで新機種の開発を目指す
「野菜は他の作物に比べ、農作業の機械化が遅れています。収穫も選別も、人の手と目が頼り。作付面積が広い地方では、人手はいくらあっても足りない。外国製のニンジン収穫機では、形が整った野菜を求める日本の消費者のニーズに応えられません」。
収穫機製造の意義を熱く語る会長だが、新規開発は困難の連続だった。
試運転では成功した収穫作業が、土壌の質やニンジンの品種によっては上手く行かない。
「人間は言い訳したがる生き物。だからこそ言い訳せずに、どこでも使えるものを作らないといけない」。時には毎日、納品先に調整に通い、改良を重ね続けた。
その結果「スーパーキャロットル」は、北海道や青森県などを中心に普及。
さらに台湾にも輸出され、2016年12月には、大根収穫機、スイートコーン収穫機、キャベツ収穫機などを含む総生産販売台数が、ついに1,000台を超えた。
2016年、生産販売台数が1,000台を突破
現在、同社ではニンジンのほかにも、大根、生食用スイートコーン、キャベツと、実にさまざまな野菜の収穫機を生産している。全国大手農機メーカー3社に、相手先のブランド名で製品を販売するOEM供給を行い、業界での知名度は高い。
2009年は「第3回ものづくり日本大賞」ものづくり地域貢献賞、2016年にはヤンマー株式会社と合同で「第17回民間部門農林水産研究開発功績者表彰 農林水産大臣賞」を受賞するなど、数々の受賞歴も同社の信頼性を高めてきた。
自社が業界の最先端を行っているという自負も、良いものを作っているという自信もある。
業務拡大のため、2007年に新社屋と加工・組立工場、2011年に整備専用工場兼格納倉庫などを新築。さらに2013年には格納庫を新築
現在も、生産者からの要望を受け、新たな野菜収穫機の開発研究が進んでいる。
機械で収穫しやすい品種の改良と普及のため、種苗会社や農家とも力を合わせ、新たな挑戦が続く。
工場の敷地内には、富良野らしいラベンダーの花壇も
同社へ量産化に必要なノウハウを持ち込んだのは、取締役社長の鎌田和晃さんだ。
15年前に転職するまでは、札幌の会社で食品工場の製造ラインの設計と部品の調達などを担当。機械製造に関わる知識と経験を身に付けてきた。
全国で収穫機を導入する農家が増え、操作の説明に飛び回る鎌田和晃社長。販路の拡大を技術者としてサポートする
鎌田社長が入社したのは、札幌で長田会長の実の娘である取締役総務部長・望美さんと巡り会い、結婚したのがきっかけだ。
30歳の節目を迎えて転職を考えた時、会長に「今の会社をやめるなら、富良野で一緒にやらないか」とスカウトされた。
設計図を広げ、長田会長を中心にミーティング中。より使いやすく、よりメンテナンスしやすいようにと改良を重ねる
機械製作に必要な図面を整え、部品の原価を割り出し、外注先に交渉する。どれも鎌田社長の得意分野だ。
しかし、衛生的な環境で稼働する食品工場の機械と違い、野菜収穫機は雨の中で野ざらしになることも。耐久性の高さはもちろん、メンテナンスがしやすいシンプルな構造が求められる。
「収穫機が故障したら農家さんが困るだけでなく、選果場の人は仕事にならないし、野菜の納品先に商品が届かない。農機メーカーは責任重大です」と鎌田社長。キャベツ収穫機のニーズが全国的に高まり、遠方の新規導入先へ指導に出向く機会が増えた。OEM供給中の大手農機メーカーとの会議や、農場の視察も多い。
忙しい日々が続くが、農家に「収穫が楽になった」と喜ばれれば疲れも吹き飛ぶ。
農作業を効率化・省力化する収穫機は、農家の注目の的。農協から工場見学に訪れる人も多い
営業を強化するため、根性があってフットワークが軽い人材が欲しいという鎌田社長。
自分自身も同社に転職するために札幌から移住し、
「富良野は自然が豊かで、素晴らしい街。市内で手に入らないものもネット通販で買える時代ですから、買い物には不自由しません。国内シェアNo.1の誇りを持って働ける環境が、何よりの魅力です」
と笑顔で言い切った。
膨大な種類の部品を管理するのも、業務部の大切な仕事。サビひとつないよう、しっかりと目を光らせる
部品の仕入れと発送を中心に、製造をサポートする取締役業務部長の大柿弘幸さんは、勤続11年。ものを作る仕事に興味があり、建築業界の営業から転身した。
工場の工作機械すべてを扱えるようになり、仕事の流れを覚えた後、鎌田社長の部品発注を手伝うため、事務部門へ異動になった。
各地へ送る交換用の部品をチェック。確実なアフターケアで、全国のユーザーの信頼に応える
収穫機は消耗する部品を定期的に交換する必要があり、個別に土地や品種に合わせた特殊仕様の機体も多い。毎日、膨大な種類の部品から必要な品を選んで発送し、ユーザーからの電話での問い合わせにも対応する。
「電話で機械のどこが調子が悪いか聞き取りをして、どこを調整すればいいか説明するのは、勤続11年目の今でも難しいですね。年々機械も進化していますし、本当に奥の深い世界です。日々勉強を重ねながら、お客さんの声から機械をさらに使いやすくするヒントをいただいています」。
業務部長の大柿弘幸さんは、主に仕入れと部品の発送を担当。製造部門を支える縁の下の力持ちだ
製造部門を支える縁の下の力持ちとして業務に励むが、ものづくりが好きな気持ちは工場時代と変わらない。今でも会長の目を盗んで製造作業をしていて、見つかると「自分の仕事すれ」と叱られるそうだ。
だが、即断・即決・即実行の人であり、毎日つなぎ姿で現場で働く会長への信頼は厚い。会長が作り上げた試作機から、社内で図面を起こし、自分たちの考えで新しいものを生み出していくことが何より楽しい。
「富良野のスーパーなどでニンジンを見ると、ウチの『スーパーキャロットル』を使っているだろうなって思うんです。家族と遠くへ出かけた時に、畑でウチの機械が働く姿を見かけることもあるんですよ」。そう笑う大柿さんの目は、工場と農業を支える誇りで輝いていた。
部品出しを担当する吉本利尚さんは勤続3年。仕事が正確で、会長にも「掃除と整理整頓が得意な子は伸びる」と評価されている
ものづくりの喜びは、工場の若手にも伝わっている。
会長が「真面目で物覚えがよく、仕事上のミスがない」と太鼓判を押す吉本利尚さんは、勤続3年。高校を卒業後、福祉や農業の仕事を経験したのち、同社の募集を知って未知の分野に飛び込んだ。
フォークリフトを自由自在に操り、部品のパレットを運ぶ吉本さん。フォークリフト免許は、入社後に会社の応援で取得した
入社直後は塗装が済んだ部品の整理、現在は倉庫で1台1台に必要な部品を選び出して組み合わせ、塗装チームに渡す部品出しを担当。
形が良く似ている部品が多く、図面を慎重に確認しながら作業を進めていく。
持ち前の几帳面さを発揮して作業を覚え、大きな部品を移動するフォークリフトの運転にも慣れた。
さまざまな種類の収穫機1台1台の受注生産に必要な部品を、リストを丁寧に確認しながら集める。注意力と集中力、根気が必要な作業だ
「どれも同じに見えた部品の違いが分かり、どこに置いてあるかも頭に入ってきて、作業が速くなったと思えた時、一番やりがいを感じます。部品の置き場所の表を調べなくても、部品をさっと集められるようになるのが理想です」と、生き生きと話す吉本さん。朝礼や社内会議で改善点を話し合い、社内全体で効率化を進められる環境にも感謝している。
「ウチの会社は上司が優しくて、分からないことがあるときちんと教えてくれますし、社長は仕事に対して厳しくても、気配りができる人。清掃や身だしなみなど、社会で役立つことも身に付く職場です」。
親睦会や社員旅行も楽しく、今まで行った中では、香川と高知がお気に入りだとか。休みの日には、77歳の現役理容師の祖母と一緒に、骨董品店や庭園を巡るのが楽しみ。着物や盆栽、工芸品など、日本の伝統美に心を引かれている。
今の目標はさらに幅広い技術を学んで、塗装全般を担当できるようになること。
吉本さんの挑戦はまだまだ始まったばかりだ。
従業員数は30名。チームワークを大切に、社員一丸となって新しい農機の開発に取り組む