土木で地域を支える喜び
先輩から後輩へ、確かに引き継ぐ技術と経験

占冠村で砂防ダムを補修中。豪雨で土砂が河川に流れ込んだ時にせき止め、下流の地域を土砂災害から守る重要な施設だ
毎日誰もが何気なく利用している道路や橋、畑の水路などの農業土木、土砂災害を食い止める砂防ダム。それらの工事を幅広く担い、地域のインフラを支える土木業、それが増山建設の仕事だ。

砂防ダムの表面を削り、型枠を組んで新しいコンクリートを流し込む。コンクリートが天候や気温の影響を受けないよう、注意しながら作業を進めていく
1965年に創業し、業務の95%が公共事業。冬の除雪と、台風や大雨で被害が出た地域の復旧作業でも活躍し、富良野地方の暮らしを守っている。

2025年7月、代表取締役社長に就任した井野克彦さん。働き方改革や新技術の導入を積極的に進めている
創業者の増山政雄さん、2代目の増山省吾さん(現会長)はこの道ひとすじの土木のプロだが、3代目の井野克彦さんは元銀行マンだ。法人営業を担当して全国各地で転勤生活を送っていたが、2017年に妻の父である現会長が率いる増山建設へ転職。家族と共に富良野へ移住し、土木の仕事をゼロから学ぶため、見習いの一人としてスコップ1本を手に現場を駆け回った。

井野社長は元銀行マン。2017年に入社後、見習いとして現場で土木を一から学び、2021年からオフィスでの後方支援に回った
入社当時を振り返り、「最初は途中でクビになるかもとドキドキしましたよ」と笑う井野さん。土木の世界は現場を知らないと何もできない。重機で何をするのか。人間の手が必要になるのはどこか。現場全体を見渡し、仕事の流れを把握して現場を管理する役割を学び、今はオフィスから働きやすい現場づくりを支援する。
2023年には業界に先駆けて現場の完全週休2日制を実現。機材は最新のものを積極的に取り入れ、対象物を自動で追う追尾式測量システムや3次元レーザースキャナー、空撮用ドローンなどを導入してきた。
「チャレンジできることは率先して取り入れて、実際に試してみて合わなかったら変えればいいんです」と井野さんは語る。

井野社長は現場の経験をデータベースとして蓄積していく計画を発案。生成AIを利用して情報を検索できるシステムを作っていこうとしている
異業種から土木の世界に飛び込み、企業のトップに立った今。最大の課題は、会社が長年積み重ねてきた技術と経験を、若い世代に伝えていくことだと考えている。増山建設はもともと新人が先輩や上司に気軽に相談でき、先輩たちも積極的にアドバイスするのが当たり前の社風だ。しかし少子高齢化で人手不足が続く時代には、若手が同期や経験年数が近い先輩から学べる体制を整えるのは難しい。
そこで井野さんが注目したのは、生成AIの活用だ。さまざまな現場の工事の概要や仕事の段取り、注意点などをデータベースとして蓄積し、チャットGPTで必要な情報を引き出せるようにしていけば、将来技術の伝承に役立つはず。5年後か10年後には、情報の検
索に慣れたデジタル世代の若者たちが活用してくれるだろう。そう考えて、システムの大枠を作る段階から新しい取り組みを進めている。

井野社長(写真右)と重機オペレーターの保岡未来さん(中央)、宇治匡也さん(左)。全員入社するまで土木未経験だった
もう一つの大きな課題は、若い世代に土木の仕事のやりがいと魅力を伝え、興味を持ってもらうこと。土木工事の現場は普段人の目に触れる機会がなく、土木科や建築科がある高校も減った。だからこそ仲間と力を合わせて大きな仕事をやりとげ、地域の暮らしを支える満足感をアピールして、土木の道に進む人を増やしたいと井野さんは願っている。
「土木は自分一人で黙々とやる仕事ではありません。相談とチームワークありきの世界です。できないことは周囲がサポートしますから、コミュニケーションを取れる人なら大丈夫。もし将来壁にぶつかっても乗り越えられます。汗水たらして働き、苦労して得たお金の大切さも実感してもらえたら」。
同社では資格取得のための講習会などの費用は会社が負担し、新入社員が企業委託生として1年間専門学校で学べる制度もある。未経験の分野に挑戦したい人を受け入れられる体制が自慢だ。

宇治さんは保岡さんより3年後輩。普段は別々の現場で仕事をしていても、同じ目標を持って頑張る気の置けない仲間同士だ。顔を合わせると話がはずむ
土木関係の資格も知識もゼロの人が、入社してから工事用車両の免許を取得し、重機オペレーターを目指す道もある。入社6年目の保岡未来さんと3年目の宇治匡也さんは、二人とも富良野生まれの富良野育ち。高校の普通科を卒業し、新卒で増山建設に入社した。
最初は現場で「下回り」と呼ばれる重機周辺の補助作業や、重機が入れない場所の手作業、国道の草刈りや補修といった新人向けの業務からスタートし、一歩一歩仕事を覚えていった。免許を取って重機に乗り始めたのは入社3、4年目から。今、保岡さんは中富良野町の国道、宇治さんは富良野市郊外の砂防ダム補修の現場で油圧ショベルを操作している。

幅広くものづくりができる仕事をしたいと、土木の道を選んだ保岡未来さん。目標は「この人になら任せられる」と信頼されるベテラン重機オペレーターになること
保岡さんはもともとDIYが趣味で、建設か建築のどちらかに進みたいと考え、幅広くものづくりができる増山建設へ入社した。採用年度に同期はいないが、先輩たちがみんな話しやすく、面倒見がいいおかげで土木のノウハウを蓄えてこられた。
「周りは仕事にプライドを持ってやっている人ばかり。こちらの仕事ぶりで気になることがあると向こうから寄ってきて、そこはこうしたらいいとアドバイスしてくれます。誰かが見ていてくれるという安心感がありますね」。

油圧ショベルを巧みに操る保岡さん。女性の重機オペレーターは社内第1号

「重機オペレーターは、まず仕事の流れを覚えることが大切」と話す保岡さん。オペレーターも入社してから重機に乗り始める前の3、4年は、現場に慣れるために手作業を受け持つ
今は現場の中心で活躍するベテランオペレーターに比べるとまだまだ未熟でも、将来は「この人になら任せられる」と信頼される人材になることが目標だ。下回りで経験を積み、仕事の流れを覚えること。重機を操る腕を磨くこと。自分で考えて周囲の人に的確な指示を出せるようになること。いくつもの段階を踏んで着実に進んでいく。
土木の一番の魅力は、一つの現場が終わった時の達成感だと保岡さんは言う。国道の現場では何もなかった場所に道が生まれ、車が走る姿に大きなやりがいを感じる。人の
生命を守る救急車や消防車も、地元の農作物を運ぶトラックも、自由に動けるのは道路があってこそ。地域に貢献できる仕事だという実感が励みになっている。

新人重機オペレーターの宇治匡也さんは入社3年目。国道の清掃や草刈りから一歩一歩経験を積んできた
宇治さんは机に座りっぱなしの事務職より、体を動かす仕事がしたいと土木の道へ。増山建設を選んだのは「ほぼ直感」だったとか。企業説明会で井野さんの話を聞き、雰囲気が良さそうな会社だと思ったのが入社の動機だ。
「初めて現場に出た頃は、先輩にスパナを持ってきてと指示されても、スパナってどれだっけと迷ってしまい、他の人が取りに行ったこともありました」と苦笑する宇治さん。2年目からは少しずつ慣れてきて、次はどの工具を使うか予測し、指示される前に用意できるようになってきた。

宇治さんは富良野市郊外の砂防ダムで油圧ショベルを担当。国道維持と農業土木を経て、入社後3番目の現場だ

「今はまだ言われたことをやるだけで精一杯」と言う宇治さん。先輩たちの目配りとアドバイスに支えられ、自分から仕事を進められるようになろうと頑張っている
今はまだ先輩オペレーターが堤防の斜面の仕上げや掘削の難しい作業をした後、削った土をダンプに積み込むなど、指示されたことを指示通りに進めるだけで精一杯。慎重になり過ぎず、もっとスムーズに作業ができるようになりたい。今ある準中型免許では扱える車両が限られるので、中型免許や大型免許も取りたいと宇治さんは意気込む。
宇治さんにどんな人が土木の仕事に向いていると思うかを聞くと、「ものを作る仕事に興味があって、失敗してもへこたれない人」とすぐ返事が返ってきた。
「土木の人は恐そうなイメージがあるかもしれないけれど、現場で叱られてもそれは自分のためになることです。相手が正しいし、何も言われなくなったら終わりです。もし自分がけがをしたら、誰かの責任になってしまうし」。
注意を真剣に受け止め、前向きに頑張れる性格も現場で役立つ大切な条件のようだ。

測量の業務からスタートし、現場所長・現場代理人を務める山内奨平さん。ライフラインに関わる構造物を造る仕事にやりがいを感じる毎日だ
現場のまとめ役である現場所長にも、土木に必要な適性は何かを聞いてみた。入社13年目、社内の現場所長の中で一番若手の山内奨平さんは「協調性」だと考える。
「学校の勉強が好きではなかった人も、土木を現場で学ぶのは向いているかもしれません。大事なのは分からないことがあった時、素直にすぐ人に聞けるかどうか。一人で悩んでいたら前に進めませんから」。

所長は一般的には現場に出ないが、山内さんは作業も担当。当日の天候に合わせて作業のスケジュールを微調整することも
山内さん自身は富良野で高校を卒業後、札幌の専門学校へ進学し、測量士補の国家資格と小型車両系建設機械の免許を取得。入社してから3年は測量を中心に経験を積み、先輩の補助について現場管理の業務を学んだ。
6年目には大規模工事の責任者になるために必要な1級土木施工管理技士の検定試験に合格。受験前には会社の支援を受け、札幌を中心に試験対策講座へ通って合格率50%前後の難関を突破した。

占冠村の砂防ダムは高さ13.5m、幅66m。森林に囲まれた現場で作業が進む

自社の社員と、コンクリートの型枠を組む専門職の大工さんたちが力を合わせて作業にあたる
現場所長は現場の管理だけでなく、工事予算の管理や協力会社への発注、施主との打ち合わせといった業務も行う。一般的には現場には出ない職種だが、山内さんは自ら作業もする。毎日翌日の工程を組んで、朝のミーティングで当日の作業内容をメンバーに説
明し、日中は天候の変化に合わせて計画を調整したりもする。

山内さんは社内の現場所長の中では一番の若手。現場の先輩たちとのコミュニケーションから学ぶことも多い

土木のプロ集団として地域の暮らしを守る仲間たち。一日一日の作業の積み重ねで、大きなものづくりを支えていく
「屋外の作業ですから、天候と気温には気を使います。雨の日は資材の運搬など、雨が降っていてもできることを進めたり、防水シートで屋根を作って作業したり。寒いとコンクリートの管理が難しくなるので、気温が下がる前に作業を終わらせたいですね。暑さや寒さで体調を崩す人がいないかも心配です」。
現場の進行は行き当たりばったりではできない。何年も経験を重ねても、新しい現場を受け持つ度に「うまくやらなければ」と新鮮な緊張感を覚えるそうだ。

札幌からUターンし、未経験の事務職に挑戦した上野ひかるさん。公共性の高い土木の仕事に魅力を感じたことが入社の動機だ
仲間と共に社会に貢献できる充実感にやりがいを感じ、先輩が後輩を育てる社風。それは事務職も同じだ。中途採用2年目の上野ひかるさんは札幌から帰ってきたUターン組で、前職はファッション系のショップスタッフだった。お客様を笑顔にする接客の仕事が楽しく3年間頑張ったが、服飾業界がコロナで大打撃を受けたこともあり、富良野の人たちの温かさが恋しくなって帰ってきた。

上野さんは高校の普通科を卒業し、前職はファッション業界の店舗スタッフ。入社時に簿記の知識はなかったが、建設業経理検定合格を目指して勉強中
ハローワークで増山建設の求人を知り、未経験の事務にチャレンジしようと決意したのは、地域のインフラという大きなものに関われること、たくさんの人の役に立てることに魅力を感じたから。1年目は保険の手続きや給料計算、年末調整など先輩の手伝いからスタートし、2年目は工事台帳の作成や電話応対、仕入れのデータ入力と仕事の幅を広げてきた。建設業経理士2級を目指して勉強もしている。

社内の事務職は8人。出産のため一度職場を離れ、戻ってきてから10年以上働いている女性社員もいる
「先輩たちは仕事が丁寧な上に親切で、土木や簿記の知識がない私にも分かるように説明してくれます。年末に慣れない仕事でミスが増えた時は、先輩も忙しいのにカバーしてくださったおかげで集中できました。原因や解決策の相談も親身になって聞いてくれます。私も将来はそんな先輩になりたい」。

先輩が自分の業務を進めながら後輩に目を配り、仕事を教える体制は現場もオフィスも同じ。尊敬する先輩を目標に成長していける職場だ
同じ部署に尊敬し目標にできる先輩たちがいる。普段話す機会があまりない現場の人たちも、会社の行事などで顔を合わせれば土木のことを教えてくれる。事務の女性の中に育児休暇中の人や、子育てのために一度退職して復帰した人がいることも心強い。将来子供ができても安心して暮らせそうな今、上野さんは富良野に戻ってきてよかったと心から感じている。

2023年に完成した新社屋の前で。北は上富良野町、南は占冠村まで、さまざまな現場で働く仲間たちをオフィスからサポートする